これって、チャールズ・ペローが例示した定常事故そのものだ!This is the normal accident that Charles B. Perrow exemplified!
「静岡県牧之原市の認定こども園で、3歳の女の子が通園バスの車内に取り残され熱中症で死亡した事件」の報道を見た時、「科学技術と上手につき合うために」と題するNHKのカルチャーラジオ 科学と人間での講義で聞いた例にそっくりだと思った。それは、チャールズ・ペローの定常事故(normal accident)概念の説明だ。
「バスの車内に取り残され熱中症で死亡した事件」の要素を取り出すと次のようになる。
- 2022年9月5日の朝、こども園に3台ある通園バスの運転手の1人が用事で送迎できなくなったことから、急きょ、増田立義理事長(73)がバスを運転することになった。バスには70代の乗務員の女性も乗って、午前8時に園を出発。園児を乗せたあと午前8時48分にバスは園に到着。
- 乗務員は2歳の園児の手を引いてバスから降ろし、ほかの園児には自分で降りるよう声をかけて園に入った。
- 実際に降りた人数を確認しないまま、出欠確認などに利用していたタブレット端末のアプリで、千奈ちゃんをほかの園児とともに「登園した」とまとめて登録した。
- バスを運転していた理事長は、ふだん運転手が行っていた車内に残っている園児がいないかの確認や、座席などの消毒を行わなかった。バスは、こども園から200メートルほど離れた屋根のない駐車場に止められ、施錠された。
- タブレット端末のアプリは午前9時まで出欠を登録できる仕組みだったため、園では9時以降に画面で園児の出欠の情報を確認することになっていたが、この日、千奈ちゃんのクラスの副担任は、乗務員によってデータが登録される直前の午前8時55分ごろに画面をチェックした。このため千奈ちゃんがシステム上「登園した」となっていることを知らず、異変に気付けなかった。
- 副担任から報告を受けたクラスの担任も、欠席かどうか保護者に問い合わせをしなかった。
- バスが園に着いてから5時間余りがたった午後2時10分ごろ。バスの運転手が、帰りの送迎のために駐車場に止めてあったバスを園の前に移動させた際、車内で倒れている千奈ちゃんを見つけた。園からの通報を受けて午後2時20分ごろ、救急隊が現場に到着。そして搬送からおよそ1時間後の午後3時半すぎ、千奈ちゃんは市内の病院で死亡が確認された。
3歳の女の子が通園バスの車内に取り残され熱中症で死亡した事件は、ペローが例示した日常で見られる定常事故(normal accident)そのものだ。NHKの報道では「複数ミス重なる 安全管理怠ったか捜査」と表されていたが、それは刑事事件対象として扱う場合であり、ペローの観点からは「人為ミス」だけを事故の要素とする分析では不十分だ。災害社会学の観点が必要だ。
チャールズ・ペローの定常事故(normal accident)概念を次に簡単に紹介する。
スリーマイル島原発事故(1979)の社会学的分析をもとに、複雑性と相互依存性があいまって、巨大科学技術システムの事故はまれにはなっても決して無くなることはないと主張した。彼はこのような事故を定常事故(normal accident)と表現した。
彼はこのようなことは日常の中にも見られるとして興味深い例を挙げた。
ある人物が就職面接に行こうとするが日常の中で起こり得る複数の要素が重なり合って失敗する例
- ある人物が就職面接の日の朝に、パートナーがコーヒーポットをストーブの上に置いたまま空焚きをして出かけてしまってひびが入ってだめになってしまった。
- そこで、古いコーヒーメーカーを探すのに時間を取られた。
- コーヒーを飲んですぐ出かけようとした。ところが、車の所まで行った所で、部屋と車の両方のキーの付いたキーホルダーを忘れてきてしまったことに気づいた。
- アメリカのアパートではドアはオートロックで一度閉めてしまえば外からは空かないのが一般的なので、この人は部屋に入れなくなった。同時に車のカギもないので車を動かして出かけることもできなくなった。
- こんな時のために、アパートの廊下に合鍵を隠して置いた。ところがその合鍵は先日自分の本を貸した友人にこれを使って返しておいてくれと言って貸してしまっていたことを思い出す。
- そうだ、親切な隣の部屋の人に車で送ってもらおう、彼なら快諾してくれるはずだ。ところが、その隣の人は車を修理に出していてその日に限って使えなかった。
- 仕方がないので大事な就職面接があるからバスで行こうとした。ところが、この日に限ってバス会社の運転手たちがストライキを起こしていて、バスは走っていなかった。
- 隣の人の電話を借りてタクシーを呼ぼうとしたが、バスがストライキで走っていないため多くの人がタクシーを呼ぶので、タクシーはみな出払っていていつ来るか分からなかった。
- 結局、この人物は歩いて就職面接に出かける羽目になった。遅刻してしまったことで会社の側の印象を悪くして失敗し、その会社とは残念ながら縁がないという結果になってしまった。
NHK「科学技術と上手につき合うために」ゲスト講師 東京電機大学工学部教授 聚楽公太
種村 剛(TANEMURA, Takeshi)
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定常事故(normal accident)□「災害社会学、組織社会学の碩学であるペロー、C. がスリーマイル島原発事故(1979)の社会学的分析をもとに示した、科学社会学、リスク社会学、災害社会学にかかわる鍵概念。巨大科学技術システムの抱え込む特徴を、社会学においてはじめて本格的に定式化した。ペローは、スリーマイル島原発事故に関与した操作員のミス(いわゆるヒューマン・エラー)にもっぱら事故の原因を帰す説明に代え、巨大科学技術システムが構造的に抱え込む複雑な特性により事故が一定の確率で生まれるという問題の側面に注目する」(松本[2012:903])
http://tanemura.la.coocan.jp/re3_index/4T/te_normal_accident.html